副業会社設立 vs 個人申告:税負担と社会保険のリアル¶
この記事で解決できる疑問¶
- 「法人の実効税率18.5%」は本当に有利なのか?
- 副業収入がいくらを超えたら法人化すべきか?
- 社会保険料を含めた総コストはどう計算する?
- 個人受取と法人受取の損益分岐点はどこにある?
Q: 法人実効税率18.5%という話を聞いたが、本当?¶
A: いいえ、それは国税のみの話です。実際は20%台後半〜30%前後になります。
よくある誤解の構造¶
中小法人の法人税(国税)は確かに「課税所得800万円以下=15%」です。しかし、実際の納税では以下が加算されます:
- 地方法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
これらを合計すると、実効税率は約20%台〜30%前後になります。自治体や資本金規模により変動しますが、「18.5%で済む」というケースはほぼありません。
注意点
国際税務ファームの資料でも、中小法人の実効税率は26%前後という例示が一般的です。「18.5%」を前提に計算すると、大きな判断ミスにつながります。
Q: 個人の所得税率はどう考えればいい?¶
A: 「限界税率」と「実効税率」を区別して考える必要があります。
限界税率とは¶
追加で1円稼いだときにかかる税率です。
| 課税所得 | 国税率 | 住民税 | 合計(限界税率) |
|---|---|---|---|
| 〜195万円 | 5% | 10% | 約15% |
| 195〜330万円 | 10% | 10% | 約20% |
| 330〜695万円 | 20% | 10% | 約30% |
| 695〜900万円 | 23% | 10% | 約33% |
副業サラリーマンの場合¶
年収500万円の会社員が副業収入を得る場合:
- 給与所得控除後の課税所得:約300万円前後
- 副業収入は「195〜330万円」または「330〜695万円」の帯に乗る
- 追加収入の限界税率は20〜30%程度
ポイント
「実効税率20%になるから195万円が分岐点」という考え方は、限界税率と平均税率を混同しています。実際の判断は「あなたの既存所得がどの帯にいるか」次第です。
Q: 社会保険はどう影響する?¶
A: 個人事業なら追加負担なし、法人なら労使合計で約30%の負担増です。
個人事業(副業)の場合¶
- 本業の社会保険にそのまま加入継続
- 副業収入による保険料増加:原則なし
- 国民健康保険への切り替え義務:なし
マイクロ法人の場合¶
- 役員も社会保険加入義務(原則)
- 会社負担+本人負担=標準報酬の約30%
- 例:月20万円の役員報酬なら、月6万円前後の保険料
重要
「法人の方が税率が低い」と思っても、社会保険料で逆転することが多いです。特に「すぐに役員報酬で引き出す」前提なら、ほぼ確実に個人受取の方が有利になります。
実務的な判断フロー¶
ステップ1: 追加コストを比較¶
【個人受取の追加負担】
= 追加所得 × (国税の限界税率 + 住民税10%)
【法人受取の追加負担】
= 追加利益 × 法人実効税率(20〜30%)
+ 役員報酬で出す場合:社会保険料(労使合計30%)
ステップ2: 引き出し方を考慮¶
| 引き出し方 | メリット | デメリット | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 役員報酬 | すぐに使える | 社保負担大 | キャッシュフロー重視 |
| 配当 | 社保不要 | 二重課税 | 利益が安定している |
| 留保 | 当面は法人税のみ | 最終的に課税 | 再投資・経費化前提 |
ステップ3: 分岐点の目安¶
一般的な傾向:
- 副業年収300万円未満:個人受取が有利
- 300〜500万円:引き出し方次第で変動
- 500万円超:留保・再投資前提なら法人検討余地あり
個別性が高い
実際の分岐点は、既存所得、控除額、地域の税率、事業の性質により大きく変わります。上記はあくまで目安です。
クイック試算例¶
ケース: 年収500万円会社員、副業収入400万円¶
個人受取の場合¶
課税所得:約300万円(給与)+ 400万円(副業)= 700万円
700万円のうち330〜695万円帯:365万円 × 30% = 109.5万円
695万円超の部分:5万円 × 33% = 1.65万円
概算税負担:約111万円(副業分のみ)
法人受取の場合(役員報酬で全額引き出し)¶
結論:この例では個人受取の方が約82万円有利
まとめと次のアクション¶
覚えておくべき3つのポイント¶
- 法人の実効税率は20%台後半が現実的(18.5%ではない)
- 社会保険料が最大の判断要素(労使合計30%)
- 「留保できるか」が法人化の分かれ目
次のアクション¶
- 自分の給与明細から現在の課税所得帯を確認
- 副業収入の今後3年の見通しを立てる
- 税理士に具体的なシミュレーションを依頼
参考資料
- 国税庁:所得税の税率
- 日本年金機構:保険料額表
- 各自治体の法人住民税率表(都道府県・市町村により異なる)
最終更新日: 2025年9月25日