Q: 保有銘柄の受取配当金の課税額分がマイクロ法人の設立維持コストを上回りそうだから個人で保有していた株式をマイクロ法人に移動して節税する¶
A: いい発想だけど、そのまま"移す"のは落とし穴が多いです¶
実行可否は次の4点を押さえてから判断しよう。
結論(超要約)¶
- 法人で受け取る配当は「受取配当等の益金不算入」で一部または全額を課税所得から外せるため有利になり得る。ただし通常の"ポートフォリオ株式"(支配していない上場株など)は 配当の50%のみ不算入 が基本ライン(持株比率区分で取扱いが変わる)。(国税庁)
- 個人名義の株を法人に"移す"段階で、時価課税(みなし譲渡) による個人側の譲渡所得課税が発生し得る(現物出資・贈与でも原則課税)。ここを見落とすと、節税どころか初年度に課税がドンと来る。(国税庁)
- マイクロ法人は毎年の固定コスト(住民税の均等割が概ね年7万円+記帳・申告・口座管理費、さらに原則として社会保険の加入義務)がある。配当節税メリットは、これらの合計コストを恒常的に上回る必要がある。(フリー株式会社)
もう少し詳しく¶
法人での配当課税¶
配当は二重課税調整のため、法人側で益金不算入が認められる。区分は概ね:
- 完全子会社等:全額不算入
- 関係会社(一定以上保有):原則全額または利子控除後不算入
- 上記以外(一般的なポートフォリオ保有):利子控除後の金額の50%不算入
持株比率による区分
- 5%以下は20%不算入等の取扱いがある分野もあり
- 最新区分は制度資料で要確認(国税庁)
源泉徴収された配当については申告で精算(還付や税額控除の調整)。ここは申告実務でブレないよう設計が必要(会計事務所と仕訳・明細管理の型を決める)。
個人→法人へ"移す"ときの課税¶
移管時の課税に注意
現物出資・名義移管・贈与いずれでも、原則として時価で譲渡があったものとみなされ、個人に譲渡所得課税。贈与で時価未満を付ければ同族会社間の行為計算否認・時価課税リスクも。(国税庁)
つまり「移した瞬間に含み益へ課税」→ ここで納税資金が必要。含み損が大きい銘柄を先に移す・売却と買い直しの順番など、移管時点の組み合わせ設計が勝負所。
ランニングコストと閾値感覚¶
最低でも発生するコスト¶
- 住民税均等割:年7万円(多くの自治体で道府県2万+市町村5万)。赤字でも発生。(フリー株式会社)
- 実務コスト:会計ソフト+決算/申告(外注なら年数十万円も普通)
社会保険の問題¶
- 株式会社等は原則適用事業所
- 役員1名でも健康・厚生年金への加入が原則(報酬ゼロで逃げる設計はトラブルの元)
- 保険料も"固定費"に近い(アントレサロン)
→ これら合計を毎年、配当節税メリットが継続的に上回るかを数式で確認するのが先決。
実行に移す前のチェックリスト¶
1. 移管方式を決める¶
- 現物出資か売買か
- 現物出資は定款・払込・評価・検査役不要要件の充足など設立/増資実務が発生
- 売買は資金の出入りと価格の独立性を要確認
2. 評価と時価を確定¶
- 上場株は移管日の終値・仲値等の合理的基準に固定
- 恣意的価格はNG(国税庁)
3. 社会保険を前提に資金計画¶
- 加入前提の資金計画
- 報酬額と保険料のシミュレーション(アントレサロン)
4. 均等割・実務費を計算¶
- 固定費の下駄
- 年あたりいくらまで"節税メリットの赤字"を許容するか(フリー株式会社)
5. 証券口座を開設¶
- 法人名義で新規開設
- 銘柄の移管可否、手数料・名義書換の実務を証券会社に確認
6. 分別管理を徹底¶
- 個人/NISAと法人を混ぜない
- 源泉徴収区分・特定口座の扱い・配当金受領方法(株式数比例配分方式など)をそろえる
7. 出口戦略を考える¶
- 法人で保有した株の売却・配当再投資・将来の清算時の課税まで逆算
代替オプション("法人移し"の前に)¶
個人の配当課税方式を見直す¶
上場株の配当は「申告不要」「申告分離」「総合課税(配当控除)」を選べる。総合課税+配当控除が有利な所得帯もあるため、まずは確定申告の方式選択でメリデメ比較。
NISA活用¶
既存持株は入れ替えが必要だが、将来の配当・譲渡益の非課税枠を拡大していく王道策。
銘柄の持株比率戦略¶
法人で"関係会社"区分に入る水準の持分を取れば不算入割合は厚くなるが、現実的には上場分散投資では難度が高い。(国税庁)
粗い判定式(考え方)¶
年間の配当総額 × (法人側の不算入割合で出る実効軽減分)
- (均等割+社会保険の"追加負担"+実務コスト)
- (初年度のみ:移管時のみなし譲渡税)
→ これがプラスで、かつ複数年で安定してプラスなら"法人保有"を検討ゾーン
1年だけの配当見込みで判断しない
複数年での安定性を確認することが重要
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