まず地図を持つ：日本のルールはこうなっている
- 厚生労働省は2018年にモデル就業規則を改定し、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」を削除。以後は禁止前提ではなく、届出・制限の設計が軸になりました（副業・兼業章の新設）。(厚生労働省)
- ただし在職中は、判例・通説上の競業避止義務（誠実義務の一環）が働きます。すなわち「自社と競合する業務を行わない」義務は、明文がなくとも信義則から認められる、という整理です。(内閣府ホームページ)
- 厚労省の副業・兼業ガイドラインは、会社は「自社の正当な利益」を守る観点から副業を禁止・制限できる一方、正当利益が害されない場合には同業種でも認め得ると明記。線引きの中心は「利益侵害の有無」です。(厚生労働省)
- 労働時間は通算管理が原則（労基法38条）。本業と副業の合算で上限規制内に収める必要があり、把握は労働者の申告をもとに行うのが基本です。(厚生労働省)
- （参考）退職後の競業禁止は、期間・地域・対象業務が妥当であること等が条件。1年程度は有効例が多い一方、2年は否定例も見られる――と整理されます（経産省資料の判例整理）。(経済産業省)
この地図から読み取れるのは、「副業＝自由」でも「競業＝自由」でもない、という現実。"会社の正当な利益"を害さない設計こそがカギです。
企業の"競合NG"はどこに立つか（よくある就業規則の考え方）
典型的にNGとされやすいのは次の4類型です。 (A) 労務提供上の支障（本業のパフォーマンス低下）／(B) 企業秘密の漏えい／(C) 名誉・信用の毀損／(D) 競業により利益を害する行為。モデル就業規則の改定趣旨にも、この四本柱が並びます。(厚生労働省) また、リーガル実務の解説でも、同業他社での副業は競業避止義務違反に該当しうる、と整理されています。(スモールビジネスを世界の主役に フリー株式会社)
実務での回避策：副業サラリーマンがやっている"ずらし"の技法
「市場・顧客・製品」で"距離"を取る
同じスキルでも、対象をずらすと競合性は大きく下がります。
- 市場ずらし：本業がエンタープライズB2Bなら、副業は個人向け（B2C）やNPOを狙う。
- 顧客ずらし：地理（関東→関西）やセグメント（大企業→地域小規模）で被りを避ける。
- 製品・役割ずらし：本業が開発なら、副業は教育・講師・ライティングなど周辺役割に振る。 厚労省ガイドラインも「正当な利益が侵害されない場合には、同一業種でも認め得る」とするため、利益侵害の具体的リスク（顧客奪取・ノウハウ流用）を断つ設計が合理性の根拠になります。(厚生労働省)
「情報の壁」を作る（インフォメーション・ハイジーン）
機密・個人情報の持ち出しは最重リスク。NDAや端末・クラウドの分離、成果物のオリジナル性の担保（OSSや商用素材のライセンス遵守を含む）で、漏えい・混交の疑念を断ちます。実務解説も、副業・兼業での秘密保持条項や管理策の重要性を強調。(BUSINESS LAWYERS)
「時間の壁」を作る（労働時間の通算対応）
本業＋副業で時間外上限を超えないよう、申告・記録を整備。厚労省は原則方式と簡便"管理モデル"の2パターンを示しています（いずれも申告ベースで通算）。管理職やフリーランス委託など、通算の対象外となるケースの解説も併記されています。(厚生労働省)
「契約の壁」を作る（社内届出・誓約）
事前届出→許可制／届出制は多くの会社で運用されています。想定される競合範囲、情報の取扱い、長時間労働の回避について誓約・通知をセットにするのが定石。公的資料にもひな形・様式例が整理されています。(厚生労働省)
本業と"違うビジネス"にする具体ルート
① 教える側に回す：同じ専門でも講師・メンター・教材制作・技術記事なら、顧客奪取の疑いが薄い。教材は汎用内容に限定し、本業固有のノウハウは避ける（NDA順守）。
② 役割転換で価値提供：本業が開発なら要件定義の壁打ちや運用設計。本業が営業ならSaaSのセットアップ代行など、被らない"前後工程"を担当。
③ 地域・価格帯で棲み分け：本業が大手相手の高単価B2Bなら、副業は地域の小規模事業者向けに低〜中単価。
④ クリエイティブ×非コア領域：写真、映像、デザイン、翻訳、ライティング等の汎用スキルで異業種へ。
⑤ 完全異業種に飛ぶ：パーソナルジムの運営補助、イベント運営、学校・地域のデジタル支援など。
どのルートでも、顧客名の被りなし／競合プロダクトに触れない／本業の勤務時間と資産を使わないが大原則。在職中の競業避止義務を外さない動きです。(内閣府ホームページ)
"やってはいけない"チェックリスト（最小でもここは守る）
- 本業顧客への提案・勧誘（顧客奪取の疑い）／本業の価格情報・営業資料の流用（機密）／同業他社の恒常的就労（競業）→高リスク。(厚生労働省)
- 本業時間中の副業作業、慢性的な睡眠不足→労務提供上の支障でアウト。(スモールビジネスを世界の主役に フリー株式会社)
- 通算で上限超え（単月100時間未満・複数月平均80時間以内等）→上限規制に抵触。申告・管理の体制を。(厚生労働省)
データが示す「受注のリアル」：人脈・取引先・エージェント
フリーランス協会「フリーランス白書2025」では、最も稼げる獲得経路が 1位：人脈、2位：過去・現在の取引先、3位：エージェント。営業ツールもビジネス用メールや名刺が上位でした。副業であっても"信用の延長線"が主戦場という示唆は重い。(フリーランス協会ニュース)
まとめ：設計思想は「利益侵害を起こさない、起こさせない」
- 会社は正当利益の保護のために副業を禁止・制限できるが、利益侵害がない設計なら同業でも認め得る。線引きは顧客奪取・ノウハウ流用・信用毀損を避けられているか。(厚生労働省)
- 実務は「市場/顧客/製品のずらし」「情報の壁」「時間の壁」「契約の壁」で回避。労働時間は通算が原則、申告・記録で守る。(厚生労働省)
- 受注の要は人脈・取引先・エージェント。派手な発信より関係の再活用が近道。(フリーランス協会ニュース)
そこで「Monerion」— 副業の"売上と約束"を軽く、見える化
副業は限られた時間と約束（納期・条件）の競技。巨大SFAは要らないけれど、「今月いくら見込みが立ち、どの案件がいつ動くか」は一目で把握したい。Monerionは、ここにだけ集中した売上・受注パイプラインの可視化ツールです。
Monerionでできること（実在機能）
- 案件の確度・金額・納期を登録 → 月ごとの見込み額／確定額を一覧で把握。
- 継続案件と単発案件を分けて管理 → 固定の"土台"とスポットの"山"を混在させず、キャッシュ見通しが立つ。
- 請求モレを予防 → 見積・請求の基本書類を同じ画面から作成でき、未請求の洗い出しがしやすい導線。
- ローカル志向の安心設計 → データはブラウザ内に保存（必要に応じてエクスポートでバックアップ）。
注：Monerionは管理会計寄りのライトツールです。税務の適法判断や申告書作成の代替ではありません。申告に向けた記録整理や月次の見込み管理にご活用ください。
こう使うと効く（安全運用の型）
- 案件カードに「顧客区分（本業と被らない証跡）／納期／金額／確度」を入力
- 週次で"進行中・検収待ち・請求待ち"を更新（請求→完了の動線を最短に）
- 月末に見込み→確定の移行率を確認し、単価・領域の見直しに反映（本業との"距離"も定期点検）
参考・出典
- 厚生労働省「副業・兼業」ページ（ガイドライン、モデル就業規則、リーフレット等）。(厚生労働省)
- 厚労省 通達・ガイドライン（労働時間の通算・上限規制、管理モデル、申告運用）。(厚生労働省)
- 内閣府規制改革WG配布資料「競業避止義務の明確化について」（在職中の競業避止義務の学説・裁判例整理）。(内閣府ホームページ)
- 経産省「競業避止義務契約の有効性について」（退職後の期間・範囲の有効性に関する判例傾向）。(経済産業省)
- フリーランス協会「フリーランス白書2025」（獲得経路：人脈／取引先／エージェント、営業ツール）。(フリーランス協会ニュース)
- 実務解説：副業・兼業に伴う秘密漏えい防止策（弁護士寄稿）。(BUSINESS LAWYERS)